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使い込むほどに美しく、愛しくなる。岐阜を代表する伝統的工芸品。 街中に昔ながらの面影が残る高山市に店舗を構える「福壽漆器店」さん。お盆や茶道具をはじめ、お椀や花瓶など、暮らしに根ざした「飛騨春慶塗」の商品を販売しています。江戸時代の終わりである安政年間に、漆(うるし)の塗り物を物々交換していたのが創業のきっかけとなったそうで、現社長の福壽良太さんが5代目を継いでいます。 「飛騨春慶塗」は、江戸時代初期に塗師の成田三右衛門(さんえもん)が木目を生かした盆を仕上げたことが始まりとされているそうです。 岐阜県飛騨地方の名産品である飛騨春慶塗を目にすることはあるけれど、実際にどのように作られているのでしょうか…?福壽漆器店で働く水田徹さんにお話を伺ってみました。 「春慶塗りの特徴は、何といってもこの “木目の美しさ” です」と水田さん。装飾を施さず、シンプルに木目を活かした透き通った色味が一番の特徴だそうです。 「塗り物の制作は分業で、職人は素材である木地を整える “木地師” と、木地に漆を施す“ 塗師 ” に分かれています」。高い技術を持つ職人さんがそれぞれの工程を丁寧に作り、最終的に「飛騨春慶塗」が完成します。 漆塗りは、木地に目止め・下塗りを施し、摺り漆を数回重ねた後、春慶漆を塗り重ねる工程を経てできあがります。木地に着色する色によって、完成する春慶塗の趣きが変わるそうです。 また、気候の違いなどでも仕上がりが異なるため、職人さんには長年培った経験と鋭い感覚が必要とされます。 「これは出来上がったばかりのものです」と水田さんが持ってきてくださった赤く深みのある色合いの重箱からは、香ばしいゴマの香りが…! 実は春慶漆には、エゴマを混ぜているんだそう。完成した当初は色が濃く、年月を経ると落ち着いた色合いになり、木目の美しさが際立つのが、飛騨春慶塗の魅力の一つだそうです。 また、木地の素材には、加工に適したヒノキやトチノキがよく使われるとのこと。ヒノキは木目が美しいため重箱のような「板物」やお盆や弁当箱のような「曲物」に、トチノキは適度に硬く、白い色が美しいため、お椀のような「挽物」に使用されます。 そんな飛騨春慶塗ですが、職人の高齢化に伴って、今後作れなく可能性のあるアイテムもできていているのだとか。 「これは僕のおすすめですよ」と水田さんが持ってきてくださったのは、コロンとした小さな形が可愛らしい小物入れの「紅ボンボン」。名前の通り、透き通った紅色が美しく、飾っておきたくなります。飴玉や干菓子を入れるのはもちろん、アクセサリーなどを入れても映えてよさそうです。 木地に黄色い着色を施して完成した、柔らかな飴色の「豆皿」も紹介していただきました。こちらも和菓子はもちろん、小物を置くのにもぴったりで、置くものを引き立てる美しさを兼ね合わせています。素材が木であるため、軽くて扱いやすいのもポイントです。 ...
一刀ずつ真心こめて彫られた、繊細で愛しい置物。 岐阜県高山市にある「津田彫刻」さんは、伝統的工芸品としても認定される「一位一刀(いちいいっとう)彫」を代々作り続けています。 “ 一位 ”の語源はイチイの木が由来とされています。時は平安時代、二条天皇即位の際に献上した、飛騨の位山(くらいやま)のイチイの木で作られた芍(しゃく)が、他のものよりも優れていると認められ、“ 正一位 ” という称号を承ったそうです。 「イチイの木と1番をかけて“ 一位 ”、一刀ずつ心を込めて彫っていることから“ 一刀彫 ”、それらを併せて「一位一刀彫」となりました。」と教えてくださったのは、現在六代目として活動される津田亮佳(すけよし)さん。現在は、お兄さんの津田亮友(すけとも)さんとともに六代目として活躍されています。 江戸時代末期、根付彫刻師であった初代の松田亮長(すけなが)さんがイチイ材の持つ特徴の白太・赤太(辺材・心材)を使い、彩色を施さないシンプルな造形の一位一刀彫を大成したそうです。 イチイの木の特徴は、中心部が茶色くて、周りが少し明るめのクリーム色であること。このイチイの木の特徴を活かし、頭部のみ白い「ふくら雀」や一部だけ白いブローチ、茶色の銭に白いカエルがのった「銭が帰る(カエル)」など、さまざまな表現が可能となっています。 「この年輪の一つひとつが一年なんですよね。」と津田さん。細かな年輪が美しく模様となって浮かびあがっており、使用された木がいかに立派であったかを静かに物語っています。 作業台にずらりと並ぶ彫刻刀たち。彫り物をする際に使用する彫刻刀は、丸刀、平刀、三角刀など30種類以上に及び、職人の知恵と技で、その場面に適した彫刻刀を選び彫り込んでいくそうです。 はじめは、荒く大胆に。徐々に細く、丁寧に。職人技ならではの手さばきは、父親の津田亮定(すけさだ)さんと共に作業をして年月をかけて身につけたものだといいます。 「彫り師が違うとね、不思議と出来上がる物の雰囲気も変わるんですよ。」と言いながら、イチイの木を見つめ、一刀ずつ丁寧に彫りすすめていきます。それでこそ、まさに作り手の魂がこもった工芸品ともいえるのかもしれません。 また艶出しや手あかを防ぐために、一位一刀彫は仕上げに白蝋のみを塗るそうですが、日本全国の彫り物の中でも、木目を美しく際立たせるために、他に何も塗らないものは珍しいそうそうです。故に、年々、木が色濃く艶を増していき、経年変化を楽しむことができるのもこの一位一刀彫ならではの特徴とされています。 「最近では彫り師が少なくなってしまいましたが、この一位一刀彫ならではのよさを、多くの方に手にとって知っていただきたいですね」。...
美濃和紙ならではの温かみのある灯りを。 岐阜県岐阜市にある林工芸さんは、美濃和紙を用いた照明を中心に、さまざまな商品を展開されています。自社ブランドの商品数はおよそ300にも及ぶとのこと…!今回は、林工芸さんのものづくりについて、3代目の林一康さんに詳しくお話を伺ってきました。 祖父にあたる林康男さんが創業した頃は、伝統的な岐阜提灯をベースに輸出用の提灯も手がけていたそうです。その後、オイルショックにより取引がなくなり、父である謙一郎さんの時代には、世の中のニーズに応じてさまざまなものを手がけたとのこと。「木枠や鉄、塗装関係まで色々な作業に挑戦していったんです。その姿勢の結果として、今では自社で何でもできるようになっています」と一康さん。 和紙ブームが起こると、インテリアショップからオーダーを受けて、和室に合うスタンダードな照明を作り続けます。しかし、当初はそれなりに需要がありましたが、徐々にライフスタイルが洋風に変遷していくに伴い、何かもっと新しい形で照明を提供することができないかと考えたそうです。 「そこで、和室にはもちろん、洋風のモダンな部屋にも合うタイプの照明を展開したんです」と一康さん。商品展開をする中で、スタンド型などの今までとは異なる特殊なタイプも製造するようになったのだそう。 はじめは各部品を外注していましたが、色々な商品を企画する中で、自社で完結できる効率の良さを検討し、現在では、枠づくり、紙漉き、紙はり、電気部分の組み立てまで、全てを自社で担うようになっています。 「スタッフがそれぞれの持ち場で技術を駆使しているから商品が完成するんですよ」。 漉いた和紙に打ち水をする様子も見せていただきました。打ち水をすることで和紙がキラキラと輝きを増します。バリエーション豊かな新しい商品を展開していくことができるのは、この自社で全てをつくる技術を有しているからといえます。 林工芸さんでは照明だけではなく、「紙の花瓶」というアイデア商品も展開されています。 こちらは提灯の構造を利用した花瓶で、ペットボトルに被せるだけで、手軽に和風のおしゃれな花瓶を楽しむことができます。さらに、使用しないときは、潰して平らな状態で片付けられるのも魅力の一つ。 「今のお客さんを大事にしながら、世の中の流れ合わせた、林工芸だからこそできる商品を紹介し続けていきたいですね」と一康さん。 林工芸さんの紙の花瓶や扇子などの商品は、JR岐阜駅に隣接するアクティブGの2階にあるTHE GIFTS SHOPでもお取り扱いしています。現在のライフスタイルに寄り添う美濃和紙アイテムを、ぜひお手に取ってみてくださいね!
受け継がれる秘薬を、もっと身近に感じてもらうために。 岐阜県下呂市にある奥田又右衛門膏本舗(おくだまたえもんこうほんぽ)さん。会社としての創業は昭和9年になりますが、その歴史は江戸時代末期に、二世奥田又右衛門さんが整骨の術を習得したところまで遡ります。 技術が神業と称えられた接骨医である五世奥田又右衛門さんは、多くの患者さんから懇願されて、門外不出として固く守られてきた家伝の秘薬を「東上田膏」として発売します。特殊に漉いた美濃和紙を使用した生薬系医薬品は多くの方から支持され、今では7代目により「奥田家下呂膏」として受け継がれています。 そんな秘伝の下呂膏と現在展開されている下呂膏の成分を含んださまざまな商品について、日向靖成さんにお伺いしました。 「下呂膏は昔から多くの方に親しまれてきましたが、“ 特有の匂いが気になる ” という声が多かったのが新しい商品を作る経緯になったきっかけです。もっと多くの人に下呂膏のことを知ってほしいと思って、まずはこの “ なごみしーと ” をつくりました。」と日向さん。 左が昔から親しまれている下呂膏。松のヤニを使用しているため、少し炙って使うと貼りやすくなります。漢方とヤニの独特な香りがしますが、愛用者曰く、この匂いがたまらないのだとか。 新しく開発した「なごみしーと」は下呂膏よりもコンパクトで使いやすいサイズとなっています。こだわりのエッセンシャルオイルによりリラックス効果もあり、貼ってみるとまさに名前の通り心が “ なごみ ” ます。また、美濃和紙を用いていることから “ 和のかみ ”という意味も込められているそうです。 築140年ほどにもなる建物は非常に趣があり、かつて、お店で使っていた道具や看板がずらりと並んでいます。懐かしさとともに、それだけの時代を跨いで人々に愛され続けてきている奥田又右衛門膏本舗さんの歴史をひしひしと感じます。 ...
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